第二回目放送

 

 「朝になりましたー! といってもまだ暗いけどね。みんなー! おっはようー!」

 

 適当な民家で休息を取っていた橘亜美(女子12番)は、二度目になる定時放送に耳を傾けていた。今の時刻は、AM06:00。プログラムが開始してから、既に十二時間ほど経過していた。暗闇に包まれた空間に、少しずつであるが明るさが戻り始めている。まだ視界は開けていないが、次第に周囲の様子がよく分かるようになるだろう。

 

「というわけで、第二回目の定時放送の時間となりました! みんな、紙とペンは用意したかなー? では早速……あ、今回から、内容は一回しか言わないからねー! ちゃんと聞かなきゃダメだよー! ではでは、放送を始めまーす!」

 

 せっかく空が明るくなってきていて、少しばかり気持ちも上向きになっているというのに、あの無駄に明るい声で台無しだ。そう思い、盛大に溜息をついた。死亡者の名前が呼ばれる放送など、正直聞きたくもないのだが、禁止エリアが絡んでくるのでそうもいかない。もう一度盛大に深い溜息をついてから、記録するために地図と名簿を取り出すことにした。

 

「まずは、これまでの死亡者の発表をしまーす! 今回は男子17番、弓塚太一くん。以上でーす! なので、残りは二十五人かな。ま、深夜だったし、みんな休憩してたんでしょう! 問題ない問題ない! あと、禁止エリアは七時からA-6、十時からH-3、十一時からD-5でーす。これから明るくなるから、人探しもしやすいと思います! だがしかーし、その分発見もされやすいので要注意! 夜とは違った意味で警戒しないとダメだよー! ではでは、これにて放送を終わりまーす!」

 

 よくもまあ、噛まずにあそこまでベラベラとしゃべれるものだと妙な感心をしながら、順調に内容のチェックを終えた。どうやら今回死亡したのは、亜美が最期を看取った弓塚太一(男子17番)だけだったらしい。深夜の時間帯であったため、担当官の言う通り、ほとんどの生徒が休息を取っていたのだろう。確かに人を探すには不向きな時間帯であるし、いきなり襲われたらひとたまりもない。なので、亜美も太一を看取った後は、移動しつつも多めに休息を取っていた。

 何にせよ、今回の死亡者が少なかったのは幸いだ。だが、次もこうだとは限らない。自分の預かり知らぬところで、探し人である辻結香(女子13番)に死なれてしまったら、太一があそこまで頑張った意味がなくなってしまう。結香の名前が放送で呼ばれてしまう前に、一刻も早く彼女を見つけなければ。

 

『だ、大好き……だぞ……。今までも、これからも……俺は……お前のことが……世界で一番……大好きだぞ……』

 

 あれから、もう数時間が経過している。まだ記憶は鮮明だ。けれど、時が経てば、その分記憶は色褪せてしまう。映像を共有できるわけではないが、できるだけ早く伝えたい。ただし、自分が死んでは何もならないので、細心の注意は払いつつだ。

 

――慎重にいきたいところだけど、早いに越したことはないわね。なるべく積極的に動かないと。

 

 まだ周囲は暗いが、いずれ視界も開けてくるだろう。人探しにはまだ不適な時刻だが、かといってじっとしていても身体が冷えてしまうし、何より落ち着かない。地図と名簿をしまい、土を払いながら立ち上がった。行くあてなどないが、とにかくしらみつぶしにでも探さなくては。

 荷物を背負い直し、一度だけ身体をぐっと上に伸ばす。深呼吸をして肺に新鮮な空気を入れ、気合いを入れ直す。

 

「よし、行くか」

 

 別に誰に向けたわけでもないが、そう口にする。言葉というのは不思議なもので、こうやって口に出せば気分も少しは上がってくるし、決意を固めるいいきっかけにもなる。言霊というのを、案外馬鹿にしてはいけない。これは、父に常々言われてきたことだ。

 

『疲れていても、頑張ろうと口に出せば、案外頑張れるものだよ』

 

 そう口にする父も、母も、決して楽ではない仕事をしていた。帰りが遅くなることは日常茶飯事であったし、休日も月に数える程度しかない。だから、そう口にすることで、自身を奮い立たせていた部分もあったのだろう。時々こちらが大丈夫かと聞くたびに、両親は大丈夫だと答えていたけど、それが半分強がりであることも痛いくらいに分かっていた。けれど、子供に疲れた姿を見せまいと強がる両親に向かって、それ以上のことが言えるはずもない。ただその背中を見送り、そして帰りを出迎えることしか、まだ子供である自分にはできなかった。

 私もアルバイトか何かするよ。ある日、そんな両親を見かねてそう言ったことがある。基本的に青奉中学校はアルバイト禁止であるが、家庭事情によっては朝の新聞配達くらいはできるからだ。けれど、両親はこうやんわりと拒否した。

 

『学生は勉強が本分だから、働いたりする必要はない。大人になれば、嫌でも働かなくてはいけなくなるのだから』

 

 もしかしたら、それは親の意地のようなものだったのかもしれない。柔らかい言葉ではあったけれど、そこに強固とした意志が感じ取られたからだ。だからそれを押しのけて、こちらの身勝手な優しさを貫くことなどできるわけもなく、その言葉を黙って受け入れることしかできなかった。せめてもの手助けとして、毎日洗濯や炊事などの家事をこなしていたけれど、それでもいつもどこか申し訳ないと思っていた。命を削るかのように両親が働いていたのは、少なからず亜美のためでもあったのだから。

 

――あんなに必死で働いて、ずっと頑張ってきたのに、私はプログラムに選ばれてしまった……。お父さんもお母さんも……今どんな気持ちだろう……。

 

 プログラムだと知らされた瞬間、両親は一体どんな気持ちであっただろうか。ずっと心のどこかで恐れていたことが、現実になってしまった瞬間。あんなに必死で働いた結果が、全て無駄になってしまった瞬間。絶望してしまったのではないだろうか。この国に。この世界に。そして、それらに翻弄される自分達の人生に。

 

――だから、怖くなるんだ。私の考える最悪の出来事が、起こってしまったんじゃないかって。

 

 今の自分に、何ができるわけでもない。だから、祈ることしかできない。どうか早まらないでほしいと。仮に自分がいなくなったとしても、二人で仲良く生きてくれればそれでいい。どうか、何もかも投げ出したりしないでほしい。強制的に命を奪われる自分と違って、両親には選択できる自由があるのだから。

 

『父さん達はね、お前に死んでほしくなんかないんだ』

 

――どうか、どうか変なことは考えないで……!

 

 ガサッ。ガサガサガサッ。

 

 周囲に響き渡る草の音。それは、さほど遠くないところから聞こえてくる。両親のことを考えすぎるあまり、周囲の警戒を完全に怠ってしまっていた。まだ死ぬわけにはいかない。どうにもならないことに思考を裂くより、今は目の前の現実を切り抜けなければ。

 

――探し人がいる以上、ただ逃げるわけにもいかないわね。でも……

 

 どうやって主を確かめるか。その方法をしばし考える。相手が行動を起こすまで待つか。それともこちらから話しかけるか。もしくは、懐中電灯で照らしてみるという手もある。いずれにせよ、こちらの存在を示す以上、それだけでかなりの危険が伴うだろう。

 情報が欲しい亜美にとって、できれば相手とは穏やかに話をしたいところだ。けれど、もし相手が有馬孝太郎(男子1番)であるならば、いや孝太郎でなくてもやる気の人間であれば、ここから逃げることを考えなくてはいけない。孝太郎だけがやる気であるわけがない。他にも複数いるはずだ。だが、いずれにせよ、相手が分からないことにはどうしようもない。相手が分からないことには、判断のしようもないのだから。

 もう少し様子を見ようかという結論に至った途端、いきなり相手がこちらの方を懐中電灯で照らしてきた。直接目に光が当たり、一瞬眩暈が起こる。

 

「ひっ……! た、橘……!」

 

 その声は、ひどく弱々しく、まるで何かに怯えているかのような印象を受けた。猛獣を見つけた子猫のような態度に、いささか不愉快さを覚えたが、すぐにその認識を改める。おそらくその反応に、相手が亜美だからというのは関係ない。

 それは、こちらの正体を見てというより、元からそうであったかのような、おそらくそんな類いだ。

 

「あの……失礼かもしれないけど……、あなた誰?」
「ど、どうせ……。お前もやる気なんだろ……?」

 

 こちらの質問に返答しないことと、何もしていない人間に向かってそんな失礼なことを言う相手に、怒りの感情も覚えたが、この状況では仕方ないと強引に納得させつつ、もう一度根気強く同じことを聞くことにする。

 

「そんなつもりはないから、名前を教えてよ。減るもんじゃあるまいし」
「だ……騙そうったってそうはいかないからな……。そうやって、油断させるつもりなんだろ……。みんな、みんな僕のことなんか死ねばいいと思っているんだろ……。こんな何の役にも立たない奴なんか、死ねばいいと思っているんだろ……」

 

 被害妄想もここまでいくと厄介なものだ。そう思ったが、口には出さなかった。こういうタイプを相手にする場合、些細な言動や態度、小さな溜息一つでも、態度が豹変する可能性があるからだ。聞きたいこともあるので、何とか会話ができる程度には留めておかないといけない。

 ただ、この態度で誰かは分かった。こんな被害妄想を口にするのは、普段からパシリ扱いされている八木秀哉(男子16番)くらいしかいない。

 

「……分かった。声で何となく八木くんだって分かったから。あのね。私、人を探しているの。誰か見なかった?」
「みんな……みんな殺すんだ。みんな殺さないと生きて帰れないんだ……。あいつだって、そうしたじゃないか……。あいつですら、有馬ですらそうなんだから……もう……もう誰も信用なんかできるもんか」

 

 “有馬”――その名前に、頭の中で警報が鳴り響く。どうして秀哉は、ここで孝太郎の名前を出したのだろうか。もしかして、孝太郎が人を殺すところをを目撃したのか。もしくは、何かされたのか。なら、ここまで怯える態度にも納得がいく。元々ひ弱な人間が、そんなところを目撃したり、襲われたりなぞしたら、恐怖でパニックになってもおかしくない。

 

「有馬くんに会ったの? 有馬くんが、あなたに何をしたの?」
「そうだ。みんな死ぬんだ……。あいつに殺されて……曽根みたいに殺されて……! 嫌だ……僕は死にたくない……! なら、殺される前に殺さなきゃ……。そうだ……そうすれば……」

 

――これは……ちょっとマズイ状況じゃない……?

 

 秀哉の独り言から察するに、どうやら孝太郎が曽根みなみ(女子10番)を殺した現場を目撃してしまったらしい。マシンガンの銃声と時間的に考えて、孝太郎の次の出発であった秀哉が、その現場を目撃しても何ら不思議ではない。そのとき、孝太郎が秀哉に手を出したのかどうかまでは分からない。しかし、そうでなくてもクラス内では人格者で通っていた孝太郎が、みなみを殺したという事実だけでもかなりの衝撃であっただろう。その孝太郎に、いわば裏切られたということになれば、ここまで疑心暗鬼になるのも仕方がないかもしれない。

 既に太一から事の次第を聞いていたからこそ、亜美はすぐに秀哉の言葉の意味を理解することができた。しかし、もし何も知らない人間が聞いたら、果たしてその意味を理解できただろうか。それこそ、今の秀哉のように、ただ混乱するだけだったのではないだろうか。孝太郎が普段からみんなを欺いていたことなど、想像だにしていなかっただろうから。

 

「嫌だッ……! 死にたくない……! まだ死にたくないッ!! 死にたくないんだぁ――!!」

 

 こちらがそんなことを考えている間も、秀哉は同じことを繰り返し呟いていた。しかし、突然咆哮したかと思えば、いきなり懐中電灯を投げ出していた。嫌な予感がして、その場から急いで右に動いて体勢を低くしたところ――すぐにパンッという音が聞こえ、先ほどまでいた地面が爆ぜたのだ。

 

――あぁ! もう最悪!

 

 音から察するに、秀哉の支給武器は銃であるらしい。ああいうタイプが一番銃を持ってはいけないのだと思いながら、弾が当たらないように木の影に移動する。こうなってしまった以上、もう穏やかに事を進めるのは不可能だ。となれば、今の最優先事項は、ここで死なないことになる。そのためには、ここから逃げるか、最悪秀哉を殺さなくてはいけない。確かにこちらも銃を持っているので、応戦することも、殺すことも可能だ。けれど、できればあまり撃ちたくはない。当たるかどうか分からないこともそうだが、何よりこちらに敵意はまったくないのだ。状況的に正当防衛といってもいいけれど、相手はただ混乱しているだけ。しかも、それがあの有馬孝太郎のせいともなれば、多少は同情してしまうところもある。

 

――となれば、逃げるしかないわね……。

 

 そう考え、静かに移動を開始する。一方の秀哉は、闇雲に銃を打ち続けていた。そんなに撃ったら弾切れを起こすだろうと思っていたら、案の定しばらくしてカチッという間抜けな音が聞こえた。推定五発といったところか。どうやら、亜美のジェリコより装填数は少ないようだ。

 

「……い、嫌だッ……! 死ぬのは嫌だッ! 嫌だ嫌だ嫌だぁ――!!」

 

 弾切れだと分かったからだろうか。秀哉は一層悲壮な声を挙げながら、ここから走り去っていた。足音も、声も、段々遠くなっていく。次第に元の静寂な闇が訪れていた。

 

「……何だったのよ。一体」

 

 無駄に寿命を縮めたような気がするが、怪我しなかっただけよしとしよう。手掛かりの一つも手に入れたかったが、あの混乱した状態では仕方がない。秀哉のことが少しばかり気になったが、あれもこれもできるほど自分は器用ではない。それに混乱していたとはいえ、一度自分を殺そうとした相手に優しくできるほど親切でもない。

 

――とにかく、銃声もしたし、ここから離れないと。

 

 先ほどの反省を踏まえて、今度は周囲に十分警戒をしながら移動する。同じ轍は踏みたくないし、何より死ぬわけにはいかない。秀哉に銃で攻撃されたせいか、移動するだけでも少し怖いと思ってしまう。しかし、先ほどの音を聞きつけたやる気の人間に見つからないために、怖くても移動しなくてはならない。段々明るくなってきた視界が、亜美に少しばかり安堵感をもたらしてくれた。

 おおよそ三十分ほど経過したところで、足を止める。誰かがいるような気配も感じられないことなので、少し休憩しようと思い、その場に腰を下ろした。

 

――それにしても……。八木くんの態度はまぁ過敏なんだけど、それを踏まえても、ちょっと考えさせられちゃうわね……。

 

 よくよく考えれば、亜美はほとんどクラスメイトと関わりがない。グループを作るときは余ったところに入っていたし、誰かと仲良く会話をしたこともない。学費免除の特待生で居続けるために、学生生活の大半を勉学に費やした結果がこれだ。二年時までのクラスメイトならまだ多少マシであったかもしれないが、三年になって大幅なメンバー変更があったため、知らない人間が多すぎる。もちろん、それは相手にとっても同じことだ。東堂あかね(女子14番)のような人望も対人関係もない亜美を、無条件で信用できると考える人間はそういないだろう。もしかしたら、クラス内でも信用できない部類に入っているのかもしれない。

 そんな自分が、いくら太一の遺言をそのまま伝えたとしても、それを結香が信じる保障はどこにもないのだ。

 

――録音でもしとけば……って、元々そんなの持ってないけど。しかし、証明するものもないんじゃなぁ……。むしろ、私が殺したと勘違いされるんじゃ……。

 

 考えれば考えるほど、思考は堂々巡りだ。信用させられる材料を、自分はまるで持ち合わせていない。亜美一人では、嘘だとか、信用させるための出まかせと思われるのが関の山だ。思われるだけならまだいいが、先の放送で太一の死を知った結香が、このとき何をしてくるか分からない。

 ない袖は振れぬ、とはよく言ったものだ。ないものはどうしようもない。なら、方法は一つだ。元々持ち合わせていないのなら、今から持ち合わせるしかない。結香を信用させられるだけの材料を増やすしかない。となれば――

 

――辻さんが信用してくれるような人間を、仲間にするしかないかな……。

 

 会って説得すれば、もしかしたら上手く事が運ぶのかもしれない。けれど、保険はかけておくべきだ。それが亜美一人でダメなら、人を増やすしかない。結香が信用できて、間に入ってくれる人間を、こちら側に引きこむしかない。これも中々骨の折れることであるが、選択肢が複数あるだけまだいいだろう。頭の中で結香の信用できそうな人物をピックアップする。

 

――まずは、やっぱり主流派の面々。東堂さんは、協力してくれそうね。佐伯さんも多分大丈夫。園田さんは……おそらく拒絶するかな。同じ主流派の子達ですら嫌そうだもん。細谷さんと五木さんには疑われそうだけど、話せば分かってくれる可能性は高い。少なくとも、言ってみるだけの価値はある。それ以外だと、弓塚くんと仲のよかった加藤くん。頭もいいし、冷静に話を聞いてくれそう。周りのイメージに左右されることはないだろうし、この中だと一番理想的かな。

 

 考えてみれば、中々選択肢は広い。亜美を除いた残り二十四人中五人。結香を含めて六人。それ以外の人に会っても、やる気でない限り、結香やあかねらの居場所を尋ねることくらいはできる。そう考えれば、多少道は開けているような気がした。

 

――穏やかに人と会うこと自体簡単ではないけれど……。でも、やるしかないわね。

 

 広い会場の中、さして親しくもない特定の人間を探すことなど、正直難しいだろう。先ほどの秀哉のような人間もいるだろうし、無差別に人を殺す孝太郎のようなクラスメイトもいるだろう。探す材料も少ない。制限時間もある。けれど、やるしかない。あのときと同じ思いを、もう二度としないためにも。

 目的もなくただ歩きまわっていたときよりも、正直行動の難易度は上がっている。けれど、何も目的がないときより、気持ちは落ち着いているような気がした。漫然とした日々にいつかは飽きてしまうように、目的も何もなければ、いつかは殺人に手を染める側に回っていたのかもしれない。そう考えれば、この方が却ってよかったのかもしれない。

 

――ただ、こうなると分かっていれば……

 

 ふと思い起こされる一つの映像。一つの小さな後悔。それは、今から数時間前のこと。今でも脳裏に焼き付いて消えない、あの後ろ姿。すすり泣く声。思い出すたびにチクリと痛む、あのときの彼女のこと。

 今、彼女はどうしているのだろうか。少しは元気になったのだろうか。それとも、幼馴染と友人を一人失ったことで、未だ悲しみの中にいるのだろうか。もしかしたら。恋人を失った今の結香も、あのときの彼女と同じように泣いているのかもしれない。そう思うと、あのとき彼女を置き去りにした自分は、いくら自身の身の安全を守るためとはいえ、残酷なことをしてしまったのかもしれない。

 

――あのとき東堂さんに、声かけていればよかったな……。

 

 放送で呼ばれなかった以上、彼女はまだ生きている。仲間を作っているか、そもそも今どんな心境なのか分からないが、それでも生きていることだけは確実だ。今度は黙って去ることなどないよう、結香同様しっかりと探さなくては。

 もう一度あかねに会うことがあれば、そのことを謝ろう。静かに歩きながら、亜美はそう決意した。

 

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