「目が覚めましたか。」
いきなり耳に届く声。初めて聞く声。その声こそが、萩岡宗信の意識を完全に現実へと引き戻してくれた。
――誰…なんだ…?
とりあえず自分は生きているらしいこと、今はおそらく船か何かに乗せられているだろうということ。それだけしか分からなかった。今の状況を把握しようと、何とか身体を起こそうと試みる。しかしその瞬間、全身に激痛がはしり、思わず「うっ…!」呻いていた。
「動かないでください。両足と左腕を骨折していますし、右足にも弾丸をかすめています。全治数カ月の大怪我です。じっとしていてください。今そちらに参りますから。」
そう言って、声の主はこちらに歩みよってくる。歩くたびにギシッギシッという音が聞こえ、それに合わせて船が少しだけ揺れているのが分かった。
やがて、視界に一人の人物が入りこんでいた。暗いのでよくは分からないが、歳は自分とさほど変わらないではないかと思った。
「あんた…一体誰なんだよ…。」
そう疑問を口にすると、その人物はすんなりと答えてくれた。
「申し遅れました。私、専守防衛軍に所属しております、白石と申します。といっても、まだ入りたての新人なんですけどね。とりあえず、具合の方は大丈夫ですか?」
なぜか中学生に対して馬鹿丁寧な口調で話すこの人物――白石が、敵対する兵士であるということにも驚いたが、それよりも大事なことがあった。
「古山さんは…?江田は?文島はどうなったんだよ!まさか…まさか俺…」
全てを言いきる前に、口にそっと手を当てられる。そして「しっ」と、白石が小さく呟いていた。
「あまり大声を出さないでください。誰かに見つかってしまうかもしれませんし、傷にも響きます。でもまぁ、そのくらい元気があれば大丈夫そうですね。」
そう言って、白石は宗信の口からそっと手をどける。まったく状況が把握できていない宗信は、ただ目をパチパチさせることしかできなかった。
「何が起こったのか。順を追って説明します。と言っても、私はあまり説明が上手ではないので、質問は後で受付するという形で、とりあえず話を全部聞いてもらってもよろしいでしょうか?」
コクンと頷く。白石はそれで少しだけホッとしたように表情を崩すと、すぐに話を始めた。なぜ宗信がここにいるのかも、自分が預かり知らぬところで何が起こったのか、そしてみんながどうなったのかということも――
白石が話す内容は、宗信の想像をはるかに超えるものだった。