回想〜第六回目放送直後〜

 

 時は、白凪浩介矢島楓が呼ばれた――第六回目放送終了直後まで遡る。

 

 その放送を聞いていた白石兵士は、今栗井担当官が行った放送の内容に違和感を覚えた。いや、より正確にいえば、ずっと心のどこかに感じていた引っかかり。それが、今完全に形を成したと言ったほうが正しいのだろう。

 

――もしかして…この人は…

 

 ずっと思っていたこと、考えていたこと。それを思いきって打ち明けようかと悩む。けれど、それは自分自身への命を危険に晒す行為でもあった。いわば――政府に対する反逆行為にあたるのだから。

 

『もっと…早く…気づけば良かった…。両想いなら…もっと早く。』

 

 しばし考えた後、思いきって打ち明ける方を選んだ。少しだけ周りのことが気になったが、新人である自分に大した仕事は割り当てられていない。少しくらい席を外しても誰も困らないだろう。

 放送終了後、いつものようにアイスコーヒーを栗井に運んだ時に、素早く小さく声をかける。

 

「担当官。ちょっとお話があります。…できれば、二人きりで。」

 

 それだけ告げると、栗井担当官も察してくれたのか。「分かった。」と小さな声で言った後、近くの兵士に少しの間席を外すことを告げた後、すぐに席を立つ。その後に続くように、白石はその部屋を後にした。

 一度廊下に出て、栗井の後に続く形で一つの部屋へと招かれる。そこは、最初に生徒達を集め説明をし、そして出発を見送った、あの教室だった。教室に入ると、白石はすぐさま後ろ手でドアを閉め、何歩か進んで出て、丁度教室の中央付近で立ち止まる。

 

「で…話とは何だ?」

 

 そう言いながら、栗井担当官は教室の奥へと足を進め、適当に見つくろった席へ腰を下ろしていた。そこは確か、今の放送で名前が呼ばれた白凪浩介の席だったはずだ。

 

「わ…私は…」

 

 少しどもりながら、言いたいことを口にしようと試みる。あれだけ決意したのに、いざこの現場の統括者である栗井担当官を目の前にすると、その堂々たる威厳に足がすくみそうになる自分がいた。心拍数は上昇し、呼吸は小刻みになり、全身からドッと冷や汗が出る。一瞬だけ、逃げ出したくなる衝動に駆られる。

 けれど、ここで止めてしまったら、二度と言う機会は訪れない。爪痕がつくくらいギュッと拳を握りしめ、意を決して口を開いた。

 

「私は…このプログラムを…何とかして中止したいと考えております。」

 

 そう言った瞬間、目の前にいる栗井担当官の目が見開かれる。こうなったら言いたいことは全部伝えておこうと思い、もはや勢いのままに続きを口にしていた。

 

「もう耐えられないのです。まだ中学生である彼らが、こうして死んでいっていくのは…。どうにかして、プログラムを中止にすることはできないでしょうか。今生きている十人だけでも助けられないでしょうか。どうか…どうかお願いします。」

 

 そう言って、深々と頭を下げた。相手が典型的なプログラム担当官ならば、反逆分子とみなされてこの場で即刻殺されるだろう――覚悟はできていた。

 しかし、栗井担当官はそうはしなかった。ただフーっと深く息を吐いて、少しばかり声のトーンを押さえながら、静かにこう告げていたのだ。

 

「…なぜそんなことを言う?それを口にするということは、政府に反抗することになるんだぞ。それで殺されても文句は言えない。覚悟はできているのか?」

 

 そう告げる口調そのものは、言葉の内容とは裏腹に幾分か優しさのこもったものだった。それで、少しだけ緊張感がほぐれるのが分かる。やはりこの人は、ただの政府の犬ではないのだと。

 

「覚悟はできております。そもそも、私はプログラムに反対しているのです。何のために行われているのか、ずっと分からないままなのです。今回、初めてプログラムの運営に携わらせていたのですが、その疑問が解決することはありませんでした。それどころか、何とかして彼らを助けたいと強く思うようになりました。そのためなら、自分の命など惜しくありません。ですから…どうか彼らを助けて下さい。お願いします。」

 

 そう言って、もう一度頭を下げた。言いたいことは全部言えたし、これで殺されてもかまわない。結果的には無駄死だが、何もしないよりはずっといいと思ったから。言わなかったら、おそらくずっと後悔することになっていただろうから。

 栗井担当官は、しばらくの間黙っていた。頭を下げたままの白石に向かって、「とりあえず、頭を上げなさい。」と一言を声をかける。その言葉で白石が頭を上げるのを確認してから、こう口にしていた。

 

「お前の言いたいことは分かった。だが、なぜそれを俺に言う?もし、それが可能だったとしたならば、とっくにそれを実行していたとは思わなかったのか?ここまで人数が減るのを、待っていたと思うのか?」

 

 そう言われて初めて気づいた。確かに、栗井担当官の言う通りなのだ。もし、プログラムを中止させることが可能だったのならば、ここまで手をこまねいて見ているはずがない。むしろ会場にすら送り出さずに、何らかの方法で全員を脱出させていたに違いない。それをしなかったということは、必然的に“不可能だった”ということを示している。

 

「確かに…担当官のおっしゃる通りです。それは失念しておりました。ただ…私が担当官に本心を打ち明けた理由は、もっと他に理由がございます。」

 

 栗井担当官に本心を告げた理由――それは、担当官ならプログラムを中止することも可能ではないかと思っただけではない。

 

「ずっと気になっていたのです。栗井担当官がずっと生徒達に厳しいお言葉をかけられないことも、死亡者がモニタ上で確認されるたびに悲しそうな表情を浮かべておられたことも。本当は…ずっと前から打ち明けようか悩んでおりましたが、決めかねておりました。けれど、さっきの放送で、ようやく決心がついたのです。」

 

 すると、栗井担当官は「さっきの放送?」と、疑問を口にする。白石は、すぐにその答えを口にした。

 

「さっきの放送。死亡者の発表を男女逆に入れ替えましたね?確かに、今回は女子が圧倒的に多かったから、入れ替えても何ら不自然ではありません。…ですが、私には、白凪くんと矢島さんを並べて呼びたいがためにそうしたかのように聞こえました。盗聴の記録から考えても、この二人が互いに想い合っていたことは明白です。生きて幸せになることが叶わなかった二人への、せめてもの餞のように思えたのです。」

 

 さきほどの放送で呼ばれた二人。死の直前に、ようやく想いが通じ合えた二人。たった一度しか会っていない白石ですら、プログラムに引き裂かれた二人を思うと胸が苦しくなる。なら、普段担任として接していた栗井担当官は、なおさらそう思っていることだろう。だからこそ、今までまったく入れ替えることのなかった男女の順番を逆にしたのではないかと。そうすることで、少しでも二人が近づけるようにしたのではないかと。

 

「そうすることに、一体何の意味がある?」

 

 至って冷静に、栗井担当官はこう切り返す。その表情からは、感情の揺れは読み取れない。いつもと変わらないような、そんな佇まい。そして、言っていることにも説得力がある。

 そう、そうすること自体に何の意味もない。並べて呼んだからと言って、あの世で二人が結ばれるとも、会えるかどうかも分からない。この行動そのものに、何らかの利益があるわけでもないのだ。

 

「確かに、そうすることに意味はありません。ですが、“意味のないことをする”。そのことが重要なのです。」

 

 白石の一言に、栗井担当官は目を丸くする。一呼吸置いてから、白石はその続きを口にする。

 

「“意味のないことをする”のは、利益や理屈ではない別の理由が存在するからだと私は考えます。確かに担当官のおっしゃる通り、そこに意味はありません。誰が得することも、救われることもありません。だからこそ私は、担当官がそうしたのには、白凪くんと矢島さんに対して何か特別な感情があったのではないかと。そう考えたのでございます。」

 

 言いながらも、思い起こされる二人の会話。互いに想い合っていて、晴れて両想いになることができて、これから幸せになるはずだった二人。それを、プログラムが引き裂いてしまったという悲しい事実。生きていれば、たくさんの思い出を作ることができて、まだ見ぬ未来を二人で共に歩んでいくはずだった。その中で色んなことがあって、傷ついたりしながらも、少しずつ大人になっていくはずだった。けれどもう――それが叶うことはない。死んでしまったら、未来も何もかもがなくなってしまう。そのことが、何よりも悲しいと思った。たった一度しか会っていない自分がそう思うのだから、きっと栗井担当官はより一層心が痛んでいることだろう。

 

 白石は、それ以上は何も言わず、ただ黙って回答を待っていた。言いたいことは全て言ったつもりだし、これで結末がどう転ぼうと後悔はしない。けれど、それを決めるのは自分ではなく栗井担当官なのだ。

 しばしの間、ずっしりとした重い沈黙が続く。ややあって、栗井担当官は、ゆっくりと口を開いた。

 

「覚悟はできていると…言ったな?」

 

 重々しい口調で問われた質問に、迷うことなく「はい。」と答える。

 

「命を懸けて、あいつらを救う覚悟はあるのか?」
「もちろんです。」

 

 今一度、はっきりとこう答える。ずっと思っていたことだから、プログラムが始まったときから――いや、もっと前から思っていたことだから、絶対に後悔しない。この先どうなろうとも、仮に自身の命がここで消えてしまったとしてもだ。

 

 しばしの沈黙の後、栗井担当官は、こちらに向かって歩き出す。急ぐわけでもなく、ゆっくりと距離を詰めてくる。少しだけ緊張感が増す。事態はどう転ぶのか。白石は動かないことで、その答えをじっと待った。

 やがて、白石に手が届く距離まで来たところで、栗井の足は止まった。

 

「方法は…ないこともない。」
「え…」
「ただ、俺一人ではできない方法だ。」

 

 そう言って、いつのまに持っていたのか、白石に一冊のノートを差し出す。それは、何の変哲もない大学ノートだった。どこにでも売っていそうな、見出しも何もない、けれどどこか使いこまれたようなノート――

 

「ここに、首輪のしくみや解除方法、プログラムの内部事情から、船の操作や航海術、応急処置の方法まで書かれてある。」

 

 その言葉を聞いた途端、今までで一番目が見開かれた。つまりこのノートには、一介の兵士には知り得ない秘密事項が書かれているということになる。これが明るみに出れば、プログラムそのものが崩壊できるほどの内容が記されている。そんな重要なものを、なぜ自分に――?

 

「君を信じて、これを預ける。あいつらを助けるために…力を貸してくれないか?」

 

 栗井担当官は、そう言って少しだけ笑った。そういえば、笑うところを見たのは初めてだと、今さらながら気付いた。今までは、怒った顔や疲れ切った顔、そして――悲しみを帯びたような表情しか、見ていなかったから。

 考える必要などない。答えはすでに決まっている。迷うことなく、はっきりと返事をした。

 

「もちろんです。死力を尽くして、彼らを助けてみせます。」

 

 白石がそう返事をすると、彼はフッと笑いながらも、意外なことを口にしていた。

 

「そういえば…君の名前を聞いていなかったな。」
「あ…えっと、白石と申します。」
「下の名前は?」
「りょ…良太です。」

 

 そう答えると、栗井担当官は、「いい名前だな。」と小さく呟いていた。まるで、見知った仲の人間に告げるかのような親しみを込めた口調で。

 

「では、白石良太兵士。命令…ではなく、君に頼みがある。」

 

 そう思っていたら、いきなりいつもの担当官らしい口調に変化していた。その変化に驚きつつも、白石の方も敬礼の体勢を取る。

 

「今生きている生徒達を出来るだけ多く助けられるよう、死力を尽くしてくれ。そして――君自身の命も失わぬよう。」

 

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 その後、ノートの内容を頭に入れる必要もあることから、すぐには動かずにじっとしていた。白石としては、すぐに実行へと移したいところだったが、それは栗井担当官に止められていた。

 

「気持ちは分かる…が、辛抱してくれ。今はバラバラにいるから、誰かに気を取られているうちに、別の人間に発見されてしまうかもしれない。盗聴で君の存在が明るみに出ると、非常にマズいことになる。全員が一か所に集まったところで、行動に移すとしよう。」

 

 悔しかったが、栗井担当官の言っていることは的を得ている。白石は、その言葉を受け入れてじっとしていた。動けない間に死んでいった生徒達――横山広志間宮佳穂香山ゆかり窪永勇二、そして神山彬には、心の底から申し訳なく思った。そして――必ず成功してみせると、心から誓った。

 生きている五人が全員一か所に集まりそうなところで、白石は学校から出た。こっそりと出たわけではない。頃合いを見計らって、栗井担当官が小声で声をかけてくれ、まるで命令をしているような印象を周囲に与えてから学校を後にしたのだ。

 

 頭に入っている地図と、一応方位磁石で確認しながら、白石は慎重に歩を進めていった。万が一、すで首輪を外した生徒がいないとも限らない。“いてくれたらいいのに”というかすかな希望も抱きながら、順調に目的地へと近づいていった。

 ようやく半分まできたと思ったところに、一発の銃声が鳴り響いた。嫌な予感はしていたが、どうやら交渉は決裂してしまったようだ。このままでは、また見殺しにしてしまう。その銃声で、より一層焦っているのが自分でもよく分かる。

 

――くそっ!!間に合ってくれよ!!

 

 少しだけ歩くスピードを速め、銃声の方角へと近づいていく。その間にも、銃声は鳴り響いている。パンパンという銃声が響いたと思えば、ドンッというおそらくショットガンの類いの銃声、そして、また数発の銃声が鳴り響く。やや間が開いて、今度は単発の銃声。

 息を切らしながら辿りついた湖のほとり。その近くには、二人の人物が倒れていた。仰向けに倒れているのは、藤村賢二。うつ伏せに倒れているのは、おそらく文島歩。一目見れば、二人が死んでいることは明白だった。

 そして、白石の見ている中で、一人の人物が倒れていったのだ。

 

――いけないッ!!

 

 急いでその人物の元へと駆け寄る。うつ伏せに倒れていったこの人物は、確か脱出を試みていた江田大樹だったはずだ。人工衛星のこともあるので、白石は大樹の身体を抱え上げた後、急いで近くの木々に身を隠す。

 

『何をするにしても、まずは首輪を外してからだ。』

 

 栗井担当官にこう言われていたので、まずは首輪を外すことにした。

 大樹は、頭を打ち付けたせいか、今は気を失っているようだ。けれど、その方が都合がいい。何度も目をを通し、ほぼ暗記した首輪の解除を試みる。必要な部品を取り出し、慎重に大樹の首輪へそれを近づけていく。

 あっけなかった。作業を始めて約一分後、あっさりと首輪が二つに割れていたのだ。脱出を試みていた大樹と広志は、首輪の解除にあんなに苦労していたというのに、内部構造を知っているだけでこんなにも易しいものだったのだ。とにかく、これで江田大樹は“死亡”したことになったはずだ。

 

「よくやってくれたな。」

 

 大樹の簡単な応急処置(どうやらかすっただけで、内臓の損傷はないようだった)が済んだ瞬間、ポンっと肩を叩かれる。振り向けば、そこには栗井担当官が立っていた。

 

「どうして…こちらに?」
「“モニタ上”では、もうすぐ一人になりそうだからな。迎えに行くと言って出てきた。おそらく、自力では帰ってこれないだろうからな。」

 

 そう言って、これまで起こった経緯を簡単に説明してくれた。今ここに姿が見えない古山晴海萩岡宗信のこと、そしてどうしてもうすぐ一人になるのか――

 

「おそらく、古山が萩岡を引き上げてくる。ただ時間的に考えて、萩岡は仮死状態である可能性が極めて高い。けれど、すぐに人工呼吸を施せば、蘇生できるだろう。やってくれるか?」
「もちろんです。」

 

 そう返事すると、栗井担当官は安心したかのように微笑んでくれた。そして、すぐに本部から連絡が入る。今この瞬間、萩岡宗信の“死亡”が確認されたのだ。

 

 それからは、時間との勝負だった。湖の一か所が揺れていることに栗井担当官が気づき、急いで晴海と宗信を引き上げる。そのまま白石が宗信の身体を抱えて、栗井担当官と晴海からは見えないところへと急いで運んでいく。地面に仰向けに寝かせ、すぐに人工呼吸を始めた。

 宗信の身体は冷え切っており、唇の色も青紫色だ。生気はまったく感じられない。これは一刻を争うと思った。既に“死亡”となっている宗信の首輪が生体信号を送ることはもうないので、とにかく今は蘇生させることに全力を注いだ。そうしている間にも、晴海の悲痛な泣き声が聞こえる。それで、より一層心臓マッサージをする両腕に力が入るのが分かった。その声も、だんだん遠くなっていく。栗井担当官が晴海を連れて学校へと戻っているのだ。

 

――頼むッ!!目を覚ましてくれ!!

 

 そうしてどれくらい経っただろうか。いきなり宗信は「ゴホッ!」と言って、口から水を吐き出していた。まだ気は失ったままだが、自力で呼吸をしている。

 

――良かった…

 

 宗信が息を吹き返した瞬間、なぜか自分が救われた気持ちになっていた。

 

――助けられたんだ…。こんな俺でも…

 

 それから、宗信の傷の具合を見て、出来る限りの治療を施す。事情を知っていたからあまり驚かなかったが、両足と左腕は完全に骨折していたのだ。動かさないように固定してから、血が出ている右足の応急処置も行う。二人とも、怪我そのものは命に関わるものではないようだ。そのことに、白石は心の底からホッとした。

 完全に夜が更けるのを待ってから移動を開始した。骨折している宗信を背中に固定し、大樹を両腕に抱えながら、慎重に栗井担当官が用意してくれた船があるところまで歩いていく。普段から鍛えているので、成長期の男の子二人分抱えることは案外平気だ。それよりも、生きている人間二人分の重さが、白石の心を奮い立たせてくれる。

 船に辿りつくと、急いで二人を乗せる。船そのものは、思ったよりも小型だった。エンジンもついていなければ、十人乗れば定員になってしまうではないかというほどで、もっと言えば、公園の湖にあるようなボードに近い代物だ。二人を慎重に乗せた後、周囲に警戒しながらゆっくりとこぎ出す。方位磁石で行くべき方向を確認しながら、慎重に船を進めていく。あまりもたもたしてはいられない。発見される可能性があるし、天気の変化も気になるところだ。雲は除々に厚くなっている。もしかしたら、大雨が降るのかもしれない。

 こぎ出してからしばらくして、二人の様子を窺う。夜目に慣れてきたのか、少しだけ表情も見える。二人とも、動くこともなく静かに横になったままだ。それでも、規則正しい呼吸をしていることが、二人が生きていることを教えてくれる。

 

 生きている。この二人と、晴海は生きている。一人しか生き残れないプログラムにおいて、これは奇跡に近いことだろう。これも、全部栗井担当官のおかげだ。けれど、彼らは最後まで生きることを諦めなかった。生きようと必死で足掻いていた。もしかしたら、これは必然なのかもしれない。もちろん、生きようと足掻いていたのは、彼らだけではないけれど。

 今だ目を覚まさない宗信と大樹に向けて、既に本土へ帰っている晴海に向けて、死んでしまった他のみんなに向けて、白石は心の中でこう思った。

 

――よく、頑張りましたね。

 

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