――終わった…?終わったって…一体どういうこと…?
古山晴海(女子5番)は、今栗井孝が告げた内容が、まったく理解できなかった。そのためか、何も言うことができなかった。
そんな晴海を見つめる栗井の表情は、ひどく悲しいものに見えていた。教室で里山元(男子8番)がくじで選ばれたときに見せたもの、あるいは出発前に銃声が響いたときに見せたものに、それはひどく似ているように思えた。
「プログラムは、終わったんだ。」
何も言うことができない晴海に、栗井はもう一言口にした。その瞬間、胸を突かれるような衝撃を覚える。その言わんとすることだけは、本能的に察していた。けれど――聞きたくなかった。
――まさか…そんな…。嫌…お願い…それ以上言わないで…
「たった今、モニタ上で萩岡の死亡が確認された。」
――嘘…嘘でしょ…。死んだなんて…そんな…
「江田と文島も、その少し前に死亡が確認されている。もちろん…藤村や他のみんなも。」
――全部嘘だって……。違うって…言って…
「今…生きているのは、お前一人だ。」
――ねぇお願い…嘘だって…言って…
「優勝者は、お前だ。」
聞きたくないのに、受け入れたくはないのに、言葉はすんなりと耳に入ってしまう。一人。今生きているのは、晴海一人で、萩岡宗信(男子15番)も江田大樹(男子2番)も、文島歩(男子17番)も藤村賢二(男子16番)も死んでしまって、知らないところでみんな死んでしまっている。
嘘であってほしい。嘘だと言って欲しかった。
「嘘…でしょ…?だって、私が湖に飛び込んだときには…江田くんも、文島くんも生きていたし…それに萩岡くんだって…」
「古山。」
晴海の言葉を遮るかのように、栗井が静かに口を開く。
「嘘じゃない。」
晴海の目を真正面から見ながら、そう告げる栗井を見て、今度こそ嘘ではないと悟ってしまった。その瞳に、嘘偽りがないことが――はっきりと分かってしまったから。
「やっ…嫌っ…どうして…」
目から、次々と涙が溢れ出す。それは留まることを知らず、頬を伝い、地面へと滲み込んでいく。水分は絶対的に不足しているはずなのに、息をするのも辛いはずなのに、目の前に栗井がいるのに、涙を止めることができない。止める気力すら、今の晴海にはなかった。
事実なのだ。宗信も、大樹も、歩も賢二も死んでしまって、今は晴海だけが生きているということが。本当に何もかも失って、誰もいなくなって、今いるのは自分だけということが。
「どうして…!なんで…!なんで…私だけ…」
生きると決めたのに。みんなの分まで生きると決めたのに。今の晴海に、その気力はまるでなかった。生きる気力もなくなって、一人になったという絶望感だけが、晴海の心を埋め尽くす。視界に映る灰色の空が、まるでこの世の終わりを象徴するかのように見えていた。
「嘘だって言って…!!違うって言って…!!」
「古山…」
「お願いだから…嘘だって…。全部嘘だって言ってよぉ――!!」
抱えきれない感情を吐き出すかのように、大声で叫ぶ。それが、子供じみたことだと分かっていても、そうせずにはいられなかった。栗井にぶつけても意味がないのに、みんなが帰ってくるわけでもないのに、今の晴海には泣きながらそうすることしかできなかった。
そうでもしなければ、何かが壊れてしまいそうだった。
そんな晴海の様子を、栗井は黙って見つめていた。やがて、ゆっくりと晴海の身体を持ち上げる。仰向けに倒れていた晴海を、そのままの状態で抱え上げる形で。
「優勝者は、手厚く保護しなくてはいけない。悪いが、連れていくぞ。」
栗井は、静かにそう告げ、そのまま歩き出した。晴海は、抵抗することもできず、ただひたすらに泣いていた。全ての感情を吐き出すように、大声を上げて泣き続けていた。
静かに迎える夕暮れ時、一人の少女の泣き声だけがこだましていた。
男子15番 萩岡宗信 死亡
[残り1人/ゲーム終了・以上沼川第一中学三年一組プログラム実施本部選手確認モニタより]