生きる怖さと死の恐怖

 

「私立青奉中学、三年一組で行われたプログラム。東堂あかねは、その時の優勝者なんだよ。」

 

 そう告げる神山彬(男子5番)の言葉を聞きながら、古山晴海(女子5番)は、両手を胸の前でギュッと握りしめた。そうでもしないと、溢れだしそうになる感情に呑み込まれそうだったから。

 

――まさか神山くんが…お姉ちゃんの従姉弟だったなんて…

 

 知らなかった。彬との間にこんなつながりがあることを、晴海は全く知らなかったのだ。確かに一度だけ、『私にはね、晴海ちゃんと同い年の従姉弟がいるんだよ。』と言われたことはあった。けれど、まさかその従姉弟がクラスメイトで、それも出席番号の関係で始業式のときには隣の席に座っていた人のことだとは、夢にも思わなかったのだ。

 

「…プログラムで優勝する。それが手放しで喜べることじゃないことくらい、お前らなら分かるだろ?何もかも失うんだ。友人も、あるいは好きな人にも死なれて、自分一人だけが生き残る。それが…どれだけ辛いことか…」

 

 思わず両手に力を込める。晴海も大切な友人を失って、その辛さが痛いほど分かってしまう。それは晴海だけではない。萩岡宗信(男子15番)も、江田大樹(男子2番)も、そしておそらく彬も――

 

「信じられるか?あの優勝者が明るくて、いつもクラスの輪の中心にいて、みんなをまとめるクラス委員だったということが。宇津井さんみたいな偽りじゃない、本当に人を思いやれる人であったことが。それがたった、たった数日であそこまで感情を失くしてしまう。それがどれだけ恐ろしいことか。こんな…何のために行われているか分からないようなクソみたいなもののために、人生を狂わされてしまう人がいるということが。」

 

 彬の言葉の一つ一つが、痛いくらいに響いてくる。その言葉にも、怒りや憎しみ、あるいは悲しみや苦しみといった負の感情が少しずつこもっていく。彬も晴海も、一度“東堂あかね”という人物を通して、プログラムの恐ろしさを知っている。そして自身も巻き込まれてしまった故に、二重に辛い思いをしている。

 

「俺は…もう姉さんに二度とそんな思いをしてほしくない。友人も失って、今度は妹みたいな存在まで失ってしまったら、きっと姉さんには絶望しか残らないんだ。だから古山さんには、何が何でも生き残って、姉さんに会って欲しい。今なら二人は同じ経験をしているから、きっと互いに必要な存在になるはずなんだ。だから…萩岡、江田。ここで死んでくれ。」

 

 彬はそう告げると、銃口を一番近くにいる大樹に向けていた。銃口を向けられているにも関わらず、大樹はそこから動こうとはしていない。隣にいる宗信も、何か思うことがあるのか、彬から一切視線を逸らそうとはしていない。その表情は、晴海にはとても悲しそうに見えていた。

 

「それを、東堂あかねという人が望んでいなくても…お前はそうするのか?」

 

 とても悲痛な声で、大樹は彬にそう問いかけていた。きっと、大樹にも分かってしまったのだ。“東堂あかね”という人物が、彬の言う通り人を思いやれる人であるのなら、こんなことは望んではいないであろうということに。

 

「…分かってるよ。姉さんがこんなことを望んでいないことくらい。でも、ここで何が起こったことが伝えられることはない。ニュースで伝えられるのは優勝者の映像と、対象クラス。それに所要時間と死亡者の死因くらいだ。古山さんが優勝しても、俺がここで何をしたのかは、古山さんが話しさえしなければ姉さんが知ることはない。現に俺も、姉さんがどうやって優勝したのかは知らないままだ。それでいい。古山さんが優勝さえしてくれれば、それでいいんだ。」

 

 大樹に向かってはっきりと――でもどこか言い聞かせるように、彬はそう答えた。けれど、それは彬に迷いが生じていることを意味している。はっきりと人から“望んでいないかもしれない”という可能性を示唆されてしまったために、決意に揺らぎが生じたのだ。

 

――ダメッ!ダメなんだよ…!そんなこと、お姉ちゃんは絶対望んでない…!それに神山くんのやろうとしていることは、根本的に違うんだ…。だって、だって私は…

 

「もう…やめろよ…。神山。」

 

 その時、晴海の隣にいた宗信がスッと大樹の前に進み出て、彬にそう告げていた。その声色はとても凛としていて、けれど――どこか悲痛な印象を受けた。

 

 そんな宗信の意外な行動に、彬は一瞬目を見開いていたが、すぐにハッと小馬鹿にしたかのように笑っていた。

 

「なんだよ。結局、お前も自分の命が惜しいのか?てっきり正義のヒーローみたく古山さんを守るのかと思ったが、とんだ腰ぬけ野郎だな。一人しか生き残れないプログラム。古山さんを生かしたいなら、自分は死ぬしかない。それを分かっているのか?もし古山さんと最後の二人になったら、お前は自分の命惜しさに古山さんを殺すのか?さっき偉そうなことを言っていたくせに、お前の決意ってのは、その程度のものだったのかよ!」

 

 違う。晴海は直感的にそう思った。宗信は、自分の命惜しさにそう言っているのではない。もっと違う理由――自分以外の人のために、宗信はそう言っているのだ。

 それは大樹も、そしておそらく彬も分かっている。分かっているからこそ、彬は言葉で拒絶しているのだ。その理由が誰のためのものなのか。それも含めて、はっきり分かってしまっているから。

 

「どうして…したくもないようなことをするんだ。お前、本当は人を殺したくないんだろ?何か理由をつけて、無理矢理そうしようとしているだけなんじゃないのか?」

 

 そんな彬の言葉にかまわず、宗信は続きを口にする。どこか悲痛な色を帯びた声色のまま。

 

「東堂あかねさんって人の為に、古山さんを優勝させようという気持ちは本物だと思う。けれど、そのために人を殺すことには躊躇いがあるんじゃないのか?そんな…そんな辛そうな顔するなよ神山!お前はそんな奴じゃないだろ!」
「黙れ!」

 

 彬がいつになく大きな声でそう叫びながら、銃口を大樹から宗信に移していた。

 

「お前に何が分かる!お前が俺の何を知っているんだ!俺が今までどんな人生を歩んできたのか、姉さんが俺にとってどれだけ大切な人なのか、それがお前に分かるのか?!それに俺はもう人を殺した!本田さんを殺したんだよ!今さら…今さら躊躇いも何もあるわけがないだろ!」

 

 いつになく顔を真っ赤にしながらそう怒鳴り散らす彬は、今にも引き金を引きそうなくらい動揺していた。そんな彬の怒号に、宗信は何も反論しない。ただ悲しそうな表情で、じっと彬のことを見つめているだけ。

 

「でも、それは…本意じゃなかったんじゃないのか?」

 

 感情のままに発言する二人とは対照的に、比較的落ち着いた声でそう言ったのは大樹だった。

 

「ただ殺したのなら、本田さんの話を聞く必要がない。ましてやそれを、伝える必要もない。でも…お前がそれをしたのは、本田さんに対してどこか負い目があったからじゃないのか?お前が見つけたときには、本田さんはもう助からないほどの重症で、せめてもの情けに止めを刺したとか、そういうことだろ?」

 

 大樹の淡々とした発言に、彬は何も答えない。それは即ち、この言葉の肯定を意味していた。

 

「それに…やっぱり変だ。お前のやっていることは矛盾している。だって、やる気じゃない人物がずっとそうであるとは限らないだろ?さっき会った人物に何か心境の変化があって、次会ったときには容赦なく殺そうとする可能性だって十分ある。その可能性を、まったく考えなかったわけじゃないだろ?一番確実で安全な方法としては…出会った全員を殺すことだ。違うか?」

 

 彬は何も言わない。それを予期していたかのように、大樹は間を置かずに続きを口にしていた。

 

「それに、一つ疑問がある。どうして古山さんを待たなかったんだ?古山さんは、お前の次に出てくる。本当に優勝させるつもりなら、近くにいてもらったほうがずっといいはずだ。そしたらこんなまどろっこしいことをしなくてもよかったはずだし、お前も無事を確認できるから安心できたはずだ。どうしてそうしなかったんだ?」
「それは…」

 

 大樹の言葉に答えようとした彬だったが、何か思うことがあったのか、言いかけた言葉をそのままのみこんでしまった。

 

「本当は、最初から迷っていたんじゃないのか?古山さんが近くにいたら、そうせざるを得なくなる。出会った人間を、本当に全員殺さなくてはいけなくなる。だから古山さん、待たなかったんじゃないのか?だからそんな言い訳を作って、萩岡をわざと殺さなかったんじゃないのか?」

 

 大樹の言葉に、彬はまったく返事をしなかった。少しだけ晴海を見て、でもすぐに視線を大樹に戻す。口は一切開かずに、ただ黙っているだけ。

 

――え…?でも…それじゃ…

 

 確かに晴海が近くにいれば、彬は見逃すといった行為ができなくなる。本当に晴海を優勝させるつもりなら、他のクラスメイト全員の死はルール上必須条件だ。後々のことを考えるなら、片っぱしから殺していかなくてはいけない。もし、それを迷っているのなら、わざと待たないという選択肢もあるかもしれない。

 しかし、それでは決定的な矛盾が生じる。それは、晴海の安否を確認できなくなるということだ。彬の目的において、一番大事なのは晴海が生きているはどうかであるはずだ。わざと待たなかったということは、それを放棄することになりかねない。

 

 晴海は、直感的に違うと思った。

 

――じゃあ…本当は…

 

 そこで思い出した。学校を出発する際に感じた視線のことを。矢島楓(女子17番)の話から、晴海はその人物が松川悠(男子18番)だと思っていた。でもよく考えれば、悠が待っていたのは、佐野栄司(男子9番)藤村賢二(男子16番)の二人のみ。晴海の出発の時間帯では、そこまで注意深く出口を見張る必要がない。それに、悠にとって晴海は待つ対象でも何でもないはずだ。もし仮に悠であったとしても、あそこまで強く視線を感じることもないはずだ。

 

 それに悠がいたのは、左手の林。晴海が視線を感じたのは、右手の林。

 

――待ってたの…?本当は私のこと…待ってたの…?

 

 あの視線の主は彬だったのだ。本当は晴海のことを待っていたのだ。けれど、晴海が逃げてしまったために、合流することができなかった。できなかったからこそ、こうやって一人でずっと探していたのだ。探しながらも、晴海を生かすいい方法を考えて、やる気でない人間には極力手を出さないという結論に至ったのだ。

 

 迷っていたわけではない。それが叶わなかっただけなのだ。そしてそれを言わないことで、こうして晴海を庇っている。

 

――神山くんは私のことを待っててくれたのに…私が逃げたりしたから…

 

 合流できなかったことで、彬は様々な苦労をしたに違いない。晴海の安否が分からないという不安と、戦い続けていたに違いない。それで彬が極力人を殺さない理由を作れたとしても、やはり優勝させたい人物が近くにいないという心労は相当なものだったに違いない。あの時怖かったのは事実だが、そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

「じゃあ聞くが…お前らはこれからどうするんだ?」

 

 しばしの沈黙の後、彬は別の切り口から会話を再開していた。

 

「もう残りは少ない。あと、まだやる気の奴は確実に存在するぞ。江田、あれから脱出するためのいい方法でも見つかったのか?萩岡、お前は古山さんと最後の二人になったら、本当にどうするつもりだったんだ?少なくとも二人とも、古山さんを死なせようとは思っていないんだろ?」

 

 彬の言葉に、二人は何も言わない。それを確認したかのように、彬は右手にある銃を持ち直し、照準を二人に合わせていた。

 

「どうするべきか、決められないだろ?だから、俺がここで引導を渡してやるよ。心配しなくても、古山さんは絶対に死なせない。俺の命を懸けて、彼女を必ず優勝させる。だから…頼む。ここで死んでくれ。」

 

 懇願するような響きで、彬は静かにそう告げる。今度は揺らがないと決めたのか、人差し指は引き金にかかり、少しずつ動いていく。銃口を向けられているにも関わらず、宗信も大樹も持っている銃を向けようとしていない。

 このままでは――二人とも撃たれてしまう。

 

――ダメッ!ダメなんだよ!!もうやめて!!

 

 晴海の気持ちに呼応するかのように、身体が動いていた。二本の足を必死で動かし、大樹と宗信の横をすり抜け、二人を庇うかのように前に立っていた。顔を上げれば、そこには銃口を向けている彬がいる。動揺している表情も、荒い息遣いも分かるほど、すぐ近くに彬がいた。二人の間を隔てるものは、もう何もない。

 

「お願いだから、もうやめてよ!そんなことしても、お姉ちゃんは喜ばない!私だって嬉しくないよ!私なんかのために、神山くんや他のみんなの命を犠牲にしないで!!」

 

 晴海の言葉が意外だったのか、彬は完全に目を見開いていた。しかし、すぐ落ちつけるかのように数回呼吸した後、こう言ったのだ。

 

「古山さん…。君がこんなことを望んていないことは…分かっている。でも…君は生きて帰れるんだぞ?友達なら、向こうに帰ってからまた作ればいい。ここでの出来事は辛いかもしれないが、君なら乗り越えられると、俺は信じている。それに…約束したんだ。古山さんをいつか必ず会わせるって、姉さんと約束したんだ。その約束は、何が何でも果たさなくちゃいけない。」

 

 そう静かに告げると、銃の照準を後ろにいる二人に合わせようとする。しかし、それに合わせて動くことで、彬が決して引き金を引かないようにした。

 

「頼む…そこをどいてくれ。」
「嫌っ!!」
「どくんだ!!」

 

 彬の言葉に、ブンブンと首を振る形で拒絶した。それで、彬の表情が悲しそうに歪む。

 

「違う…違うの…。神山くんがやろうとしていることは…違うの…」

 

 涙を堪えるかのように唇を噛みながら、晴海は絞り出すように言葉を口にする。

 

「根本的に違うの…」

 

『晴海は…強いよ。私より強くて…優しい…。』

 

 楓が最期に言ってくれた言葉。でも今は、その言葉に応えることができない。

 

「だって私は…」

 

 次第に晴海の心に浮かび上がってくる、様々な感情。友人を殺された怒り、憎しみ。そして、悲しみ。次々とクラスメイトがいなくなっていくプログラムの残酷さ。自分がおめおめと生きている罪悪感。そして、いつ誰に殺されるかも分からない恐怖。これらの感情を抱える晴海の心の中は、もう押しつぶされる寸前だった。だからこそ、抱いてしまう思いがある。

 楓がこの言葉を聞いてしまえば、絶対に反対するだろうと痛いくらいに分かっている。けれど、それが自身の弱さを証明するものだとしても、誰も望んでいないと分かっていても、そう思わずにはいられない。簡単には死なないと決めたのに抱いてしまう。後ろ向きで絶望的な、この思いを。

 

「だって…どうしても生きたいって…思っていないから…。」

 

 晴海のその言葉に、彬の表情が大きく歪んだ。彬が何か言う前に、感情のままに言葉を発していた。

 

「死ぬのは…怖いよ。でも、今生きているのも辛いんだ…。もし生き残ったとしても、プログラムの出来事を抱えて生きていく自信が…私にはない。いっそのこと、死んだほうが楽なんじゃないかって思う自分がいるんだ。きっと…お姉ちゃんだってそうだったんだよ。死んだほうが良かった。こんな悲しい事実を知るくらいなら、“何も知らないまま死んだほうが幸せだった”って…。」

 

 次第に声に感情がこもっていく。堪え切れない感情が、言葉や涙となって溢れてくる。楓を失って、もう生きている人も少なくて、その中で知った、たくさんの悲しい事実。

 

 月波明日香(女子9番)が、友人である谷川絵梨(女子8番)を殺したという事実。明日香が、楓や白凪浩介(男子10番)をも殺そうとしたという事実。それが原因で、明日香が浩介に殺されたという事実。そして、浩介が文島歩(男子17番)に殺されたという事実。そして、晴海自身が宇津井弥生(女子2番)に殺されかけたという事実。弥生が乙原貞治(男子4番)を裏切って殺したという事実。その弥生を、晴海自身が殺したという事実。そして、楓が弥生に殺されたという事実。

 

 知りたくなかった。知らなければよかった。こんな悲しい事実。こんなに辛くて悲しい思いをするくらいなら、何も知らないまま死ねばよかった。こんな事実を抱えて生きていくなんて、晴海には耐えられない。ましてやこんな自分のために、命を投げ出そうとしている人がいるなんて。

 

「こんな私なんかのために、神山くんや萩岡くんや、江田くんや他のみんなが犠牲になるなんて耐えられない!お願いだから、萩岡くんと江田くんを殺さないで!!自分の命を粗末にしないで!!もうやめてよ!!」

 

 だから、彬のやっていることは違うのだ。それは道徳的にとか、そんな問題ではなく、晴海自身が望んでいないことだから。生きることを望んでいない人のために命を投げ出すことなど、あってはならないことだから。たとえそれが、自分ではない別の誰かのためだったとしても。

 

 晴海の言葉に、今度こそ彬は大きく動揺していた。いつものポーカーフェイスはそこにはなく、ただ悲しそうに表情を歪ませて、涙は決して流すまいと歯を食いしばっているのが分かる。大樹や宗信に向けられている銃口――今は晴海に向けられている形になっている銃口は、はっきりと分かるほどに震えている。

 

「止めてくれ…。そんなこと…言わないでくれ…。」

 

 涙に歪む晴海の視界の中には、彬だけが映っている。今にも泣きそうな表情で、今までとは違う表情で、今は晴海だけを見つめている。

 

「分かって…いるんだ…。」

 

 そう小さく告げた後、彬は静かに銃口を下ろしていた。

 

「俺のやっていることは間違っていて…古山さんも姉さんも…それを望んでいないことくらい…。でも、俺がそうしようと思ったのは、古山さんが“生きたい”って…。“死にたくない”って…。そう思っているって…信じていたからなんだ…。それなのに、死んだほうが良かったなんて言われたら…俺はこれからどうしたらいい…?どんな理由があったにせよ、本田さんを殺したのは事実で、江田や藤村には怪我を負わせた。そんな俺は…これからどうしたらいいんだ…?」

 

 震える声で、彬は小さくそう言った。銃を持つ右手の人差し指は、だらんと下がっており、もう引き金に指すらかかっていない。気づけば、彬の両目からは静かに涙がこぼれ落ちていた。

 

――本当は優しい人なのに…。私がいなければ、きっと誰も殺そうとは思わなかったのに…。こんなに辛い思いをしなくてすんだのに…。どうして?どうして…こんなことになっちゃったの…?

 

 それに、人を殺した罪に苦しんでいるのは彬だけではない。晴海自身も、正当防衛に近い形とはいえ弥生を殺した。それは、どんな理由があるにせよ、赦されることではない。罪の意識に苛まれているのは、自分も同じなのだと。そう言おうと思った。それで、彬の苦しみが少しでも楽になればいいと思った。

 

 それを伝えるために口を開こうとした。その時だった。

 

「だったら俺が引導を渡してやるよ。全員ここで死ねばいいんだ。」

 

 彬のものでも、宗信や大樹のものでもない。第三者の声が聞こえる。そしてすぐに、その正体を目の当たりにした。晴海の前に立っている彬の身体の向こう側。木の影に隠れながら、こちらにマシンガンらしき銃口を向けている窪永勇二(男子7番)であるということを。そしてその顔には、不気味な笑みが張り付いているのを。

 

 晴海の視線を追うかのように、彬がバッと後ろを振り返る。すぐに危険を察知したのか、急いでこちらに駆け寄ってきていた。

 

「全員伏せろ!!」

 

 切羽詰まった声と共に、身体を押し倒される感覚。その勢いのままに地面に背中を打ち付け、視界に青空が映った瞬間―――

 

 パララララという銃声が、静かな空間にこだました。

 

[残り7人]

next
back
終盤戦TOP

inserted by FC2 system