第四回目放送〜果たせなかった約束〜

 

「時間だ。四回目の放送を始める。」

 

――まったく、毎度毎度有り難くもない情報を提供してくれるよな…。

 

 座りながら近くの木に身を預け、もう四回目となる迷惑な放送に耳を傾けていた白凪浩介(男子10番)は、既に用意していた地図と名簿を懐中電灯で照らした(もちろん、なるべく光が漏れないように細心の注意を払いながら)。背中に感じる大木は、クラス一身長の高い浩介がもたれかかっても余り有る立派なものであった。この存在は、少しだけ浩介を落ち着かせた。

 

「死亡者は、男子4番乙原貞治、6番霧崎礼司、12番津山洋介。女子は今回いない。以上三名。残りは十六人だ。禁止エリアは、一時からF-6、三時からG-6、五時からH-3だ。これからプログラムは二日目に入る。辛いだろうが、生きたいのならば冷静に行動するように。では、放送を終わる。」

 

 ブツッと音声が切れたところで、もう一度名簿を確認する。一瞬聞き間違いかと思ったが、友人である乙原貞治(男子4番)の名前が呼ばれたようだ。もっと驚くかと思ったが、案外冷静に受け止めている自分にびっくりしている。

 

――慣れて、しまったんだな…。人が死ぬことに。

 

 もちろん貞治が死んだことは悲しいし、殺した人間を憎く思うし(貞治が乗るわけないので、殺した人間は十中八九やる気の人間)、もう会えないと思うと心が痛む。けれど、もっと動揺して、下手をすれば涙を流すかもしれないと思っていただけに、自分でも冷静でいられることは思いのほかショックだった。

 

――俺って、結構やな奴かも…。

 

 岡山裕介(男子3番)の遺体に手を合わせないことといい、友人の死をどこか人事のように受け止めていることといい(実際自分が死んだわけではないから、人事といえば人事なのだけど)、もっと人間ができているのかと思ったが、やはりまだまだ“子供”ということなのだろう。

 そこで思った。今も生きている萩岡宗信(男子15番)のことを。今の放送で呼ばれなかったことからして、今もどこかで生きているんだろうが、あいつはどう思ったのだろうか。

 

――まぁ、悲しむよな。少なくとも俺よりは。

 

 情に厚く、涙もろい(本人に言ったら全力で否定するだろうが)宗信なら、放送途中でも手が止まるほどのショックを受け、下手をしたらボロ泣きしている可能性がある。それはとても宗信らしくて、とても人間らしい一面。少しだけ羨ましいなんて思ってしまう。

 そんなことを考えながら、再度名簿を見る。今回呼ばれたのは三人。しかし今までで一番少ない人数の中で、貞治だけでなくもう一人、呼ばれてならない人間の名前があった。友人や想い人とは違う、託された探し人の名前。

 

――霧崎もか…。

 

 そこで思い出すのは、最後に見た小さな背中。自身の気持ちを正直に話した上で、霧崎礼司(男子6番)のことを浩介に託した横山広志(男子19番)のこと。

 あれだけ頼まれたのに、必ず見つけると言ったのに、約束は果たせなかった。いや、広志だけでなく江田大樹(男子2番)にも、貞治のことを頼まれたのに果たせなかった。決して探していないわけではなかったけれど、それでも見つけられなかった。きっとあの二人は、今まで一番ショックを受けているに違いない。本当は探したかったのに、その気持ちを押し殺して首輪を外す方法を考えている。果たして、その作業はどれくらい進んだのだろうか。

 

 いずれせよ、今度会ったときは真っ先に謝ろう。そう思った。

 

 名簿はバックにしまい、地図はその場に置いたまま準備を始める。ざっと見る限り、どうやら南の方はほぼ禁止エリアになったようだ。なら、みんな北の方に移動するだろう。エリアが狭くなった分、探し人も見つけやすくなるかもしれない。今まで来た経路を戻るような形になるが、北の方へと移動するのが最善の策だ。そう考え、コンパスで方角を確認する。

 

『お前だったら…どうする?復讐とか…考えるか?』

 

 広志に聞かれたことが、ふいに頭の中にこだまする。

 

 果たして、礼司は復讐にはしったのだろうか。そしたら、その相手に返り討ちに遭ったのだろうか。いや、復讐すべき相手ではない、別の相手の襲撃に遭って命を落としたのだろうか。

 けれど、浩介は何となく、礼司を殺したのは藤村賢二(男子16番)であるような気がしていた。礼司は運動神経抜群で、それなりに冷静な思考も持ち合わせている。そう簡単にやられるような奴ではないはずだ。だとしたら殺した人間は、礼司に匹敵するくらいの能力の持ち主ではないか。それに、賢二はプログラムに乗っている。礼司の仇が、賢二だった可能性だってある。

 いつのまにか考え込んでいたことに気づき、小さく首を振る。これはあくまで推測にすぎない。下手な推測は疑心暗鬼に陥らせ、自分自身を追い詰める。あまり下手なことは考えてはならない。事実をしっかり受け止めなければ。

 スクッと立ち上がる。少なくとも、矢島楓(女子17番)が呼ばれたときは、自分は冷静でいられないであろうことは確信していた。一刻も早く見つけたい。貞治や礼司のように、手遅れになる前に。

 

 周囲への警戒心は決して怠らず、けれどいくらか早足で、浩介はその場を後にした。その後ろ姿が暗闇に消えるのに、さほどの時間はかからなかった。

 

[残り16人]

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